呼吸法=プラーナヤーマ
1日2万回くらいしている呼吸。深呼吸は体に良いとされてきました。
最近はさらに呼吸の重要性が見直され、『呼吸法』は、健康のため、ストレスをやわらげるためにも注目されています。
呼吸は無意識に起こり、自律神経が大きく関与します。そのため自律神経の影響を受けやすく、感情や緊張によっても呼吸は影響を受けてしまいます。
心臓の鼓動や胃の消化作用などは自分で調整できないのですが、呼吸に関しては意識してコントロールすることも可能です。
これをうまく利用すれば、意識的に呼吸をコントロールすることで、自律神経への働きかけもできるということです。
呼吸法『プラーナヤーマ』は、感情を落ち着かせたり自律神経に作用し、普段自分自身ではコントロールの難しい部分までコントロールする訓練と言えます。
今回はその呼吸法の1つである【カパラバティー・プラーナヤーマ】が、身体に与える影響を解剖学的に考えてみます。
カパラバティ【頭蓋骨浄化呼吸法】とは
『カパラ』とは【頭蓋骨】
『バティ』は【輝く、光】
を意味します。
この呼吸法は頭蓋骨の位置を整えて、中を清掃し、浄化する呼吸法です。
顔が生き生きと輝いて、目は強さを放ちます。
バストリカ・プラーナヤーマへの準備となります。
カパラバティの効果
頭蓋骨、呼吸器官、鼻道が浄化され、粘膜性の疾患に有効です。
呼吸気道の緊張をほぐすので、喘息の発作やわらげることに役立つとされています。
カパラバティは呼気が頭蓋底へ強く当たることになります。このエネルギーは頭蓋骨に微細な振動を与え、硬膜の緊張を緩めます。それは直接的に頭蓋内の静脈血排出を促します。頭蓋骨の調整は脳脊髄液の流れを整え、その液に浸される中枢神経系のシステムも整います。
血液中の老廃物が排出されて、心臓の働きは正常化されていきます。
肺を浄化する効果もあり、呼吸の安定にも良いです。
身体の中に滞った空気を外に排出し、自然に新鮮な空気が入ってくることを促します。
強く呼息することで、呼気に関わる筋肉を強化します。腹横筋が鍛えられるのでウェストを作ることを助け、腰痛にも効果的です。
そして、横隔膜の動きは内臓をマッサージします。特に接している臓器、胃、肝臓、脾臓、腎臓を活性化し、正常な位置に収まることを助けます。
循環器、呼吸器、消化器系統が調整され、強化されます。
ナディーというエネルギーが流れる道を浄化し、感覚をクリアにします。
眠気を取り除き、ストレスを解消します。マインドを活性化し、ポジティブな思考になります。
全身に活力、エネルギーが満ちてきます。
カパラバティに関わる解剖学
呼気を鼻から一気に吐く時、鼻道の上の部分に強く空気がぶつかることになります。
鼻道の上の部分は頭蓋骨の下(頭蓋底)になります。ここには蝶形骨、篩骨があり、強くぶつけた呼気は蝶形骨と篩骨の底にぶつかり、骨を振動させます。
蝶形骨
蝶形骨は脳頭蓋の他の全ての骨と連結して全体をまとめているので、頭蓋底の要石と呼ばれます。頭蓋骨の可動性にとって重要な骨です。
蝶形骨にあたる呼気の微細な振動は、脳頭蓋全体を緩めることにつながります。
特に蝶形骨と後頭骨の接合部である、蝶形後頭軟骨結合のアライメント調整は骨格全体のバランスに影響します。
蝶形骨の上(トルコ鞍)には脳下垂体が乗ります。
脳下垂体はホルモンを分泌し、生体の機能維持に関わる場所です。蝶形骨の微細な振動によって刺激を受けて活性化されます。
さらに蝶形骨には小脳テントが付着します。蝶形骨から脳の中の硬膜に微細な振動をとして伝播されることで、相互張力内膜の緊張を緩め、脳を活性化し、脳脊髄液の流れを正常化し、静脈洞の排出を促します。
篩骨
篩骨は顔面頭蓋と脳頭蓋にまたがる特徴的な骨です。
頭蓋の内側では鶏冠という突起があり、この部分には大脳鎌が付着しています。
小さな裂口が数多くあり、スカスカした骨で、振動の伝達はよいと思われます。
大脳鎌も相互張力内膜なので、微細な振動による膜組織の緊張緩和は、脳脊髄液の循環、脳の活性化、静脈洞の排出を促します。
また、蝶形骨も篩骨も眼球の奥にあり、神経の経路にもなっています。
目が生き生きとしてくることは直接的に考えられます。
横隔膜、胸郭の動き
肺は胸膜に包まれた器官です。肺自体に伸び縮みする力はなくて、横隔膜と肋骨の伸張運動によって、受動的に動かされています。
安静時呼吸では『横隔膜』の収縮が吸気の7割程度を担っています。もう1つは胸郭を広げる『外肋間筋』の働き。この2つの筋肉が働いて吸気を行っています。
吸気は筋肉の収縮で起こるのですが、呼気は肺自らが風船のように縮む力で行われます。
【安静時呼吸】
吸気→筋肉の収縮で胸郭を開いくことで肺を膨らませる
呼気→肺や胸郭の弾力で戻る
という動きです。
カパラバティは、これとは全く正反対の運動を使う呼吸法
【カパラバティ】
呼気→呼息に関わる筋肉を瞬時に強く収縮させる
吸気→収縮の反動で戻る、肺の自動的な動きで自然に空気が入る。又は軽く吸う。
常に働いている吸気の筋肉群を休ませて、反対に普段働きにくい呼気の筋肉群を強化します。
相反抑制システムも働くため、呼気の筋肉群を収縮することは吸気の筋肉群を緩ませることにもなるんです。
努力性吸気では、横隔膜、外肋間筋が最大限に収縮し、それを補助する形で斜角筋、胸鎖乳突筋、肋間挙筋、肩甲挙筋、小胸筋、前鋸筋、脊柱起立筋群、後鋸筋などが働きます。
呼吸が浅い人は、日常の安静時呼吸でこれらの補助するための筋肉が働いていることもあります。補助する筋肉が疲れて硬くなり、肩こりや頭痛、イライラする感情などの原因になっていることもあります。
カパラバティは呼気に関わる筋肉を活動させることで、これらの筋肉が過剰に硬くなっている状態をやわらげることが可能です。
カパラバティで強化される筋肉
・内肋間筋、腹横筋、腹斜筋、腹直筋
カパラバティで緩む筋肉
・横隔膜、外肋間筋
・斜角筋、胸鎖乳突筋、肋間挙筋、肩甲挙筋、小胸筋、前鋸筋、脊柱起立筋群、後鋸筋など
胸郭、横隔膜、腹部に関わる筋肉や臓器の機能を整えてくれます。
カパラバティのやり方
①自分に合った、楽な座り方をします。(パドゥマアーサナかシッダアーサナが良いと思います)手は膝の上にチンムドラを組んで置きます。
②頭、首、脊椎、仙骨をまっすぐに伸ばします。目を閉じてリラックスします。
③素早く両鼻から息を吸います。鼻の先に意識を集中し、顔の筋肉、頭部はリラックスします。
④内側の腹筋(腹横筋)を急速に収縮させ、パッと息を瞬時に強く吐き、次に息を浅く吸います。(自然に入ってくるのを感じる程度)
とても強力な技法になります。
カパラバティを始めたばかりの時は1秒に1回のスピードで息を吸って吐きます。
1ラウンドは8〜10回の吐いて吸う動作です。1ラウンド終わるごとに普通の呼吸をしてお休みします。お休みの時はバランスを取り直す身体や頭部を感じたり、開放感、静脈洞の排出などを感じるのも良いと思います。
全て終わった後はシャバ・アーサナでお休みします。
熟練してくれば、1週間ごとに1ラウンドの呼吸を10回ずつ追加して、最高120回になるまで増やしていってもいいです。
朝夕2〜3回、カパラバティを行うのもいいです。
カパラバティは食後3〜4時間は開けて、空腹で行います。
夜遅い時間行うと眠りを妨げるかもしれません。
【禁忌】
心臓病、高血圧、めまい、てんかん、脳卒中の方はカパラバティを行うのを控えます。
カパラバティ・プラーナヤーマ
今回は解剖学的にどのような作用があるかを考えてみました。
カパラ『頭蓋骨』バティ『輝き』という言葉が、解剖学的に見てもピッタリとくる名前です。
カパラバティプラーナヤーマは非常に強力な浄化法です。
微細な行法ほど、実は強力な浄化法になることが多いです。
きちんとした指導者の元で行うのが一番ですが、自身で行う時は少ない回数で短時間から始めることをお勧めします。
プラーナヤーマも身体に作用することを知ると、またイメージが変わって実践できるのではないでしょうか。