インナーマッスルとアウターマッスルの二極化
運動量が少なくなると、”筋力が落ちる”と言われます。
当たり前でしょ!と思われるかもしれませんが、具体的にどのようになっていくのでしょう。
加齢による身体の変化を見ていくと、実際にはインナーマッッスル(遅筋)とアウターマッスル(速筋)では違う変化をしていきます。
トレーニング方法のアイデアとして、または病気の予防、怪我の予防、いつまでも若く身体を保つために、筋線維の変化について考えます。
インナーマッスルの変化
主に遅筋線維の多い筋肉(インナーマッスル)は萎縮してガチガチ、硬くなっていく傾向あります。
柔軟性がなくなるので、関節の可動範囲は小さくなるし、関節の隙間も狭くなっていきます。
これが姿勢を支えるための筋肉の特徴でもあります。
インナーマッスルは常に長時間体を支えているため、いつも働いている(収縮している)ことになります。
例えば姿勢が少し猫背だと、頭が前に出てしまうので、それを常に支えるために過剰に頑張らなくてはいけなくなります。
すると筋肉は運動過剰となり、短縮や拘縮を起こしてしまします。
アウターマッスルの変化
主に速筋線維の多い(アウターマッスル)は弱化して弛緩しやすい傾向になります。
特にインナーマッスルが硬くなると、アウターマッスルは動けるフィールドがなくなり活動しにくくなります。
運動不足や深部の筋肉の拘縮によって、速筋線維は弛緩して、ペタペタになり、ハリがなくなっていくんです。
筋肉線維の違いによって、また日常での使われ方の違いによって、インナーマッスル(遅筋線維)とアウターマッスル(速筋線維)は全く逆の経過をたどります。
そして、筋肉の質の差はどんどん開いて、二極化していきます。
具体的な筋肉の変化と傾向
それでは、どの筋肉が、どのように変化していく傾向にあるかを、具体的に見ていきます。
短縮する傾向の筋肉
- 頭部の短伸筋
- 肩甲挙筋
- 僧帽筋上部、中部
- 脊柱起立筋腰部
- 腰方形筋
- 咬筋
- 胸鎖乳突筋
- 斜角筋群
- 肩甲下筋
- 小胸筋
- 腹斜筋
- 外旋六筋
- 大腿直筋
- 大腿筋膜張筋(腸脛靭帯)
- 腸腰筋
- 股関節内転筋群
- 下腿三頭筋
- 上肢の屈筋
弱化する傾向の筋肉
- 三角筋
- 僧帽下部
- 前鋸筋
- 殿筋群
- 深部になる頸部の屈筋
- 広背筋
- 前脛骨筋
- 足趾の伸筋
- 腓骨筋群
- 上肢の伸筋
ここではチェコの医師であるウラジミール・ヤンダの説を参考にさせていただきました。
上の筋肉を比較すると、主動作筋が短縮傾向だったら、拮抗筋が弱化する傾向になることが多く、相反する関係にあることがわかります。
それが身体の歪みにつながって、パターンを形成していくんです。
姿勢の傾向
上にあげた短縮する傾向の筋肉を見てみると、どのような姿勢になるかがわかります。
①猫背になる
②頭が前に出て、首が短くなる
③肩甲骨が挙上して、前傾する
④腰椎が前弯して、腰が縮む
⑤骨盤が前傾する
⑥腰仙関節に過剰な負担がくる
この姿勢になると、肩こりや腰痛、目の疲れ、内臓の調子の悪さなどを引き起こしてしまいます。
体型の崩れや運動パフォーマンスの低下にもつながります。
短縮した筋肉がありつつ、そのまま負荷の大きな運動や瞬発的なスポーツの動きは、怪我や故障のリスクが高くなるでしょう。
運動パターン
運動パターンは、その人の立ち方や歩き方の癖のようなもの。
運動パターンは乳幼児期からバランスが崩れ始めると言われています。
パターンの形成には怪我や環境といった要因、生活習慣やしているスポーツによって変わってきます。
運動パターンの平衡状態が乱れるか崩れるかしてしまうと、偏った筋肉や関節に負荷がかかりバランスが崩れます。
関節の機能障害は筋緊張を高めて、それが長く続くと拘縮に至ります。
それがさらに、姿勢や運動パターンを害することになり悪循環のサイクルに!
最近のスポーツ選手は一つの運動だけをしてきただけでなく、「昔は水泳をしていたサッカー選手」など、身体の使い方に多彩な経歴があることも多くなっているようです。
ある程度身体の土台ができて、乱されない安定性が得られた上に成り立った上にスポーツ特有の筋肉をつけていく方が身体にとっては良いです。
大人になってから新たなパターンを獲得するのは、作り上げてきた恒常性を変化させていくことでもあります。
時間と知識を使って丁寧に実施していく必要があります。
筋肉の傾向とトレーニング方法の違い
これは一つの提案です。
いろいろな方法があると思いますが、手順として参考にして見てください。
短縮している傾向の筋肉(主にインナーマッスル)をトレーニング
①ストレッチ、マッサージなど
②広がった可動範囲での筋力訓練
③変化したパターンを定着させるためのダイナミックな運動:スポーツ、ランニング、ウォーキング、ヨガなど
①『筋緊張が亢進』『拘縮』『短縮』している筋肉に対してトレーニングする手順は、まず凝り固まった筋肉に柔軟性を取り戻すことです。
その方法はマッサージでも、ストレッチでもかまいません。
硬ければ硬いほど、時間が経っていれば経っているほど、時間をかけて丁寧に実践します。
②短縮した傾向の筋肉が緩んで可動範囲に広がりが出たら、次はその広がった範囲での筋収縮を起こしていきます。神経、筋収縮の習慣化、強化を行います。
③一箇所の運動に変化があると、全体のパターンが取り直しが行われます。新たなパターンでの動作、連動が身につくように全体を使った運動を行います。
例としては、ランニングやウォーキング、ヨガなど。
弱化している傾向の筋肉(主にアウターマッスル)をトレーニング
①拮抗している側(短縮傾向の側)の筋肉を伸張する。ストレッチやマッサージなど
②筋力訓練(広がった可動範囲での筋収縮を練習)
③負荷を強くして筋力訓練
①訓練したい側と拮抗している側の『筋緊張』『拘縮』『短縮』を緩めます。(筋力発揮を制限している要因になっていることが多いため)
②もしも可動範囲が広がれば、広がっただけの部分で筋収縮を行います。
例⒈上肢屈筋をストレッチした後に、上肢伸筋の筋収縮を行う。
例⒉脊柱起立筋の腰部をストレッチした後に、腹直筋の筋収縮を行う。
③運動の方向を②で確認した後に、負荷を強くした運動、ダイナミックな運動を行う。
まとめ
トレーニング方法は少し難しく感じるかもしれません。
重要なことは『短縮している筋肉を見つけて伸張する』という最初のプロセスです。
これは自分を観察することが必要ですし、気長に時間をかけることが必要な時もあります。
うまくいけばいくほど、姿勢や運動パターンが変化します。
「次の日に大事な試合がある」という時には、パフォーマンスが変わる可能性があるので実施しない方がいいです。
「すごく疲れが溜まっている」という時にもさらに疲れを助長させる可能性があるので注意してください。
長い目で見て『健康的な身体』『きれいな動き』を作るためには有効な考え方なので、参考にしてください。