広背筋の特徴
広背筋とは、背中の表面を中部から下部にかけて大きく広がる筋肉。
とても面積が大きいのが特徴です。
人体の中で最も表面積が大きい筋肉なのですが、薄っぺらいので、断面積(厚さ)まで考えると、大胸筋や三角筋の方が大きい筋肉になります。
普段は使われにくい筋肉なので、薄っぺらくてそれほど発達しておらず、意識しにくくなっています。
体操や、水泳で使われる筋肉なので、選手はよく発達していて、体は逆三角形のきれいな形をしています。
広背筋をうまく鍛えると逆三角形のきれいなシルエットができます。
◉ 広背筋の運動の特徴
① 腕を後ろに動かす …「上腕伸展」 下の図①
② 腕を背中の 中央の方向に動かす …「上腕内転」 図②
③ 腕を内側にくるっと回す … 「上腕内旋」図③
④ 腕、肩甲骨を下方に向かって引っ張る
…「肩甲骨内転、内旋、下制」 図④
広背筋が働くと、このように運動が起こります。
日常生活でそんな動きをすることはほとんどないので、あまり使われません。
そのため、
・ 意識しにくい
・ 収縮を感じにくい
・ 運動の方向づけ、の感覚が得られにくい
ということが挙げられます。
他の筋肉よりも鍛えることが難しい筋肉だと思います。
広背筋のトレーニング効果を上げるためには、他の部位よりも
・ 起始、停止の場所を覚えること
・ 筋肉が収縮する方向をイメージしてトレーニングすること
が役に立ちます。
◉ 運動の順番
広背筋は大円筋ととても仲良し。同じ方向に作用する筋肉です。
身体の特徴と、サイズの原理(小さいサイズの運動単位から働き始める原理)を考えると、大円筋の収縮から運動は始まりそうです。
例えば背中を反らすとき。背中を反らすよりも先に、腕から動きが始まります。
なので運動作用の順番としては
腕 → 肩甲骨 → 背骨 の作用になります。
ゆっくり方向づけをすると、全てを同じタイミングではなく、グラデーションのように順を追って運動が始まります。
広背筋を鍛えるメリット
◉姿勢が良くなる
広背筋は、骨盤、腰椎、下部肋骨の位置関係を保つ役割を担っています。腰は姿勢を支えるための重要な部分です。
うまく鍛えると姿勢が良くなるので、疲れにくくなり、動作もきれいに見えます。
猫背の予防や矯正、肩こりの改善にも役立ち、腰痛の予防にもなります。
◉代謝が向上し、太りにくくなる
大きな筋肉なので、鍛えることで代謝がアップします。
筋肉をつけることは脂肪を燃焼する効率も上がります。
背中の筋肉が安定すると、腹部にスペースが生まれ、内臓が働きやすい環境となります。内臓や体の中を通る血管のスペースも保ちやすくなり、血流も良くなります。
◉体のシルエットが変わる
姿勢が良くなることに加えて、広背筋が鍛えられると逆三角形のシルエットを作ります。
「たくましく見える」「動作が安定しているように見える」など、雰囲気も違って見えるようになるかもしれません。
◉下から物を持ち上げるのが楽になる
広背筋は、腰の構造を守りながら、重いものを持ち上げる時にも活躍します。下から物を持ち上げるのが楽になります。
◉呼吸が深くなる
広背筋は、呼吸にも関わりがあります。
肩甲骨と肋骨の動きはとても深い関係にあり、肩甲骨の位置によって、肋骨の運動は影響を受けることになります。
肩甲骨の周りの筋肉が固くなると、肩甲骨は肋骨に張り付くように密着します。
胸郭に張り付いたまま、湾曲に沿って挙上して、上から肋骨を圧迫します。
広背筋は肩甲骨を下へ引き下げ、肋骨が広がるスペースや腹部のスペース作りをします。
下部肋骨にも直接付着するので、強さと柔軟性が両立すると、呼吸のための運動補助として貢献してくれます。
肋骨の可動性がスムーズだと呼吸は深く楽になります。
◉「腕を上げる」「背骨を反る」がスムーズになる
猫背や、肩甲骨周りの筋肉が硬いと、腕を上げる時、僧帽筋上部線維の活動が強くなります。すると、首と肩の上側がつまって窮屈になります。
背中を反る時には、胸の後ろが丸いまま、頚椎や腰椎の伸展が過剰になります。
さらに、極端だと頚椎や腰椎の圧迫が強くなり、首、腰を傷める原因にもなります。※図①
広背筋は挙上する肩甲骨を引き下げて制御し、首のスペースを確保して「腕を上げる」「胸椎を反る」という動作をスムーズにします。※図②
運動するときの注意点
◉運動の方向
普段の生活では、広背筋の収縮方向へ腕を動かすことはほとんどありません。なので運動の方向を理解してもそれを再現することは難しいはずです。
まずはイメージを高めて方向づけを慎重に行ってみることが大事かと思います。
◉負荷の量
負荷が強すぎると腕に力が入ったり、腹筋など屈曲方向の筋肉に力が入り、広背筋の運動方向をきれいに再現できません。
まずは、方向づけが最初は大事。負荷を強くするよりも軽い負荷にして実践しましょう。
◉部分を意識する
普段使われていないということは、他の筋肉で代償してしまう可能性があります。動いた方向の結果だけでなく、広背筋に効いているか!を感じながら実践しましょう。
猫背予防のための広背筋トレーニング
それでは、自宅で何も道具がなくても広背筋をトレーニングする方法をいくつかご紹介します。
今回は猫背を予防するために、広背筋が最大限に収縮した位置で働くような筋トレ方法です。
猫背を予防するためには、腕を背中・臀部側に近づいた位置で広背筋が収縮するように筋トレしましょう。
【運動のコツ】
薄くて、胸腰筋膜へとつながる広背筋。運動のコツは、仙骨に向かってサランラップを引っ張るようなイメージで行います!
うつ伏せでのトレーニング
① 手のひらを天井に向けてうつ伏せになります
② 手のひらをほんの少し内側に返しながら、肩の位置を肩甲骨の下角に近づけるように腕を持ち上げます。
③ 肩甲骨を背骨、仙骨の方に引きつけます。
④広背筋に収縮を感じながら、①〜③までをキープしつつ、背骨を少しでいいので反らします。
立位でトレーニング
① 直立か座った姿勢で、背骨をまっすぐに引き伸ばしたまま、上半身をやや前に倒します。
② 手のひらをほんの少し内側に返しながら、肩の位置を肩甲骨の下角に近づけて腕を伸展します。
※伸展をがんばりすぎると肩甲骨が上に上がってしまうので気をつけましょう
③ 肩甲骨を背骨、仙骨の方に引きつけます。
④ 広背筋に収縮を感じながら、①〜③までをキープしつつ、
胸の中心をあごの方向(斜め上方向)にゆっくりわずかに引き上げます。
(広背筋の収縮で胸を引き上げるイメージ)
テーブルを使ってプッシュアップ
① テーブルに手を置きます。指は前方へ向けて、肘はほんの少し曲げて、伸びきらないようにします。
② 肩の位置を肩甲骨の下角に近づけ、肩甲骨を背骨、仙骨の方に引きつけます。背骨が丸くなりやすいので、まっすぐのまま我慢。
③ 肘の曲げ伸ばしがないように、腕は一切動かしません。広背筋を収縮、緩めるを繰り返します。
背骨が空間を上昇したり下降したりを繰り返します。わずかな動きです。
肩がすくむと、構造に負担がかかるので、すくむまで筋肉を緩めないようにします。
広背筋ストレッチ
① 両手を上げて、右手で左手首を持ちます。
② 右手で左手を引き上げながら、体の左側をストレッチ。
③ 広背筋が伸びるように、気持ちよくゆっくりと左側を引き伸ばします。
真横、少し背中を丸めるなど、少しずつストレッチする部分を変えても気持ちがいいです。
さらに筋肥大をさせたいなら
広背筋が働くようになると姿勢の変化を感じるはずです。
それだけでも効果的なのですが、より筋肥大をさせたいなら、負荷の量を大きくしていく必要があります。
筋肥大の方法として
① 懸垂
② ワンハンドドローイング
③ ラットプルダウン
などが実施しやすいかと思います。
ジムなどでチャレンジしてもいいですね。
まとめ
広背筋のトレーニングのコツは、まずは負荷をかけずに方向を覚えることです。
スタイルを良くしたい、姿勢を良くしたい、腕の動きをスムーズにしたいと思うのであれば、負荷をかけずに運動方向のクオリティーを高めていくようにするだけでも効果的。
さらに筋肥大をしたいと思ったら、方向づけが身についてから少しずつ負荷を増やすことをお勧めします。
そうすれば、スタイルを保ちながら、たくましさも増し、腰を痛めたり、姿勢が崩れたりせずにステップアップしていけるはず。
難しい筋トレですが、実践する価値があるトレーニングです!